IN THE COURT OF THE CRIMSON KING / KING CRIMSON(クリムゾン・キングの宮殿/キング・クリムゾン)
1. 21st Century Schizoid Man (Including Mirrors) 2. I Talk To The Wind 3. Epitaph (Including March For No Reason/Tomorrow And Tomorrow) 4. Moonchild (Including The Dream/The Illusion) 5. The Court Of The Crimson King (Including The Return Of The Fire Witch/The Dance Of The Puppets) ※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。 |
今さら、語ることないほど、語り尽くされているはずのこの「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING(クリムゾン・キングの宮殿)」。またかつては、THE BEATLESの後期の傑作アルバムと言われている「ABBY ROAD(アビー・ロード)」をチャート1位から蹴落としたアルバム」として紹介されることが多かったのですが、これは英国音楽誌「DISC」誌1969年11月8日号の記事で「遂にデビューアルバムが『アビイ・ロード』をトップから引きずり降ろした」と書かれていたからだと言われています。実際の全英オフィシャルチャートでは最高5位(ちなみに全米ぼるボード誌では最高28位)だったと言われています。
しかし、このKING CRIMSONが新人バンドとしてデビューした時の驚きは並大抵のことではなかったのでしょう。この長めの曲ばかりをプレイして、いろんなジャンルと融合したようなロックを日本では「プログレッシブ・ロック」と呼んでいます(海外で言っても来日経験のあるプログレッシブ・ロックのバンドのメンバー以外には通じません)。「プログレッシブ・ロック」と分類されるグループとしてはすでにPINK FLOYDやTHE MOODY BLUESがいますが、このアルバムを掲げてKING CRIMSONがデビューすることで、「プログレッシブ・ロック」というジャンルが脚光を浴びて行ったことはたしかです。
グループは写真向かって右からロバート・フリップ(ギター)、グレッグ・レイク(リード・ボーカル、ベース)、ピート・シンフィールド(詩、イルミネーション)、イアン・マクドナルド(キーボード、メロトロン、サックス、ウッドウインド、ビブラフォン、バック・ボーカル)、マイケル・ジャイルス(ドラムス、パーカッション、バック・ボーカル)という5人組で始まりました。
もっとも、ピート・シンフィールドは詩を提供し、コンサートでは照明のイルミネーションを構成するだけで、実際の演奏には参加していません。なお、ピートはその後はROXY MUSICのコンセプト作りをしたり、グレッグ・レイクがCRIMSON脱退後に結成するEMERSON , LAKE & PALMERの「BRAIN SALAD SURGERY(恐怖の頭脳改革)」に詩を提供したり、無名だったイタリアのP.F.M.が世界的に有名になるのに貢献したりしています。
バンド・リーダーはずっとグループに在籍しているロバート・フリップと考えられていますが、デビュー・アルバムに関してはイアン・マクドナルドがリーダー的存在だったようです。
このアルバムを手にした人はまずその何とも言えない印象的なジャケットに圧倒されることでしょう。ジャケットを描いたのは画家のバリー・ゴッドバーという人で、鏡を覗きながら描かれた自身の自画像を発展させたものなのだそうです。見開きジャケットなので、開くと下の画像のようになっています。
このジャケットを見て爽やかな音楽が演奏されていると思う人はひとりもいないでしょうね。
このアルバムのジャケットとセカンド・アルバムのジャケットは和紙の分厚いような紙に印刷されていました。これは日本盤も米国盤も英国盤も同様でした。
1曲目から、“21st Century Schizoid Man”(当時の邦題は“21世紀の精神異常者”とついていましたが、 最近では倫理上好ましくないとして“21世紀のスキッツォイド・マン”になっているようですが、ピンと来ませんよね)という凄いタイトルの曲なんですから、聴く前から「なんじゃこりゃ?」とドラマ“太陽に吠えろ”で松田優作が死ぬシーンで叫んだ台詞を思わず口にしても許されるというものです。
宇宙空間を思わせるようなスペーシーな音がしたかと思えば、いきなりディストーションが効きまくったギターとサックスの音が炸裂し、変拍子のドラムが不思議なリズムを刻み、歪みまくったグレッグ・レイクのボーカルが入るのですから、驚くなと言われても驚きますよね。
落ち着いて聴けと言われて聴ける人はいないでしょう。うちの犬なんてこの曲がかかっている間じゅう吠えまくっていましたよ。
作品のクレジットにはメンバー全員の共作と書かれています。ドラムのリズムに合わせてギターを弾くのがさぞや大変だったと思います。
ジャズっぽい要素のある曲だと思えば、ドラムスのマイケル・ジャイルスがジャズ畑の人なんだそうです。かなりのテクニシャンだと思いますが、このかたの最大の弱点はツアーが苦手だそうで、そのためかこのアルバムだけでさっさと脱退してしまうのです。
2曲目“I Talk To The Wind”・・・1曲目とうって変わってスローで静かな曲。作曲:イアン・マクドナルド、作詩:ピート・シンフィールド。
“脇目も振らずに進んでいた男が、遅れている男に尋ねた。どこにいたんだ? 僕はここにいたし、あそこにもいたし、その間にもいたよ。僕は風と話していたんだ。でも、僕の言葉は運ばれて行ってしまった。風には聞くことができない。風には聞くことができないんだ・・・”
ピートの書くのはかなり哲学的でミステリーですね。静寂の中、フルートが風のように吹いて行き、メロトロンがそれを追い、グレッグの声が優しく囁く。マイケル・ジャイルスのドラムスは足音のように小刻みな変速リズムを刻んでいます。
そしてこの曲は次に始まる曲の序曲のように目立たず、しかしやさしく聴く者のこころを撫でて行くのです。
3曲目“Epitaph”・・・メンバー5人の共作。チンパニーがリズムを刻んだあとメロトロンが流れ、アコースティック・ギターが泣くように響く。壮大ながら悲壮感がクライマックスになっていく曲。
“Confusion will be my epitaph(混乱は私の墓碑銘になるだろう)”という言葉が明日に夢も希望もない現実を想像させ、絶望であるが故に滅びの美学を描いています。
このアルバムを初めて聴いたのは私が中学3年生の時(オン・タイムではなく、後追いですが)だったと思いますが、こんなすごい曲をデビューアルバムから作って、バンドは続いて行けるのだろうか?と人ごとながら、心配したのを覚えています。案の定、KING CRIMSONはデビュー・アルバム発表後、イアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルスが脱退。以降、ロバート・フリップ以外のメンバーは入れ替わり立ち替わりの歴史を繰り返して行くのです。それが新境地を目指すためであり、不死鳥のように何度も蘇る秘訣だったのかも知れません。
このアルバムの制作に一番時間を費やし、イニシアティブを取っていたイアン・マクドナルドがまさか一番先に脱退したとは驚きです。彼は「自分たちの演奏が不安や恐怖の感情にインスパイアされているのにほとほと嫌気がさした。もっと聴く人が楽しむことが出来る音楽をプレイしたい」と言ってグループから離れて行ったようです。
4曲目“Moonchild”・・・メンバー5人による共作。これまたけだるい感じのスローな曲。こもったようなグレッグ・レイクのボーカルとアルペジオのギター、フルートがそれを縫うように流れ、ドラムスがフォローする。闇の中にいるように怖い曲なのに、なぜかその静寂が安らぎを与えて、脳波はα波になっている感じ。その後、ビブラフォーンとギターが絡み、けだるいままで長々と続く曲。しかしこのアンニュイなけだるさは飽きることがない。この曲も次の序曲のようでもありますね。
5曲目“The Court Of The Crimson King”・・・マクドナルド作曲、ピート作詩。最近まで気づかなかったのですが、アルバムタイトルは“IN THE~”とあるのに、曲名には“IN”はないのですね。
ドラムスに導かれ、ハモンドオルガンが響き、まるで宮殿であるかのような華やかなイメージで始まります。この曲でもギターはアコースティックでおとなしめに、グレッグのボーカルにメロトロンのコーラスが被って行きます。透明な美しさの中に、その透明感がガラスか水晶のように研ぎ澄まされていて怖いイメージとなっています。この“クリムゾン・キングの宮殿”はどうやら呪われているようです。“crimson”とは「血の色に近い赤色」のことで、ジャケットの赤はまさにその色を示しているのでしょう。
KING CRIMSONは長く続いているバンドですが、このデビュー・アルバムをして、最高傑作とする人も多いようです。好みの問題で好き好きでしょうが、たしかに衝撃のデビュー作と言える画期的なアルバムだったことは間違いないでしょう。もっとも、シングル・カットなんてできる曲もなく、ラジオで流れるとしてもFMがほとんどだった印象があります。
余談ですが、このグループのアルバムはどこまでフォローすればいいのだろうか?と正直迷っております。後発のコレクター・アイテムになるようなアルバムも山のように出ているグループですし・・・。
このアルバムは何度もリマスターされて発売されています。以下には、通常のリマスター盤CD(1999年リマスター)、結成50周年で発売されたブルーレイもの(5.1chサラウンド)、結成40年で発売されたCD+DVDオーディオのカップリングもの(DVDオーディオのカップリングものは5,1chサラウンドの音や白黒の当時のプロモ・ビデオの画像等入り)を掲げておきます(50年と40年ではサラウンドの分離の仕方がかなり違います)。とにかくこのバンドはどんどん昔のリマスターやライブ盤が出るので、マニア泣かせのグループです。
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