DIXIE CHICKEN / LITTLE FEAT (ディキシー・チキン/リトル・フィート)
1. Dixie Chicken 2. Two Trains 3. Roll Um Easy 4. On Your Way Down 5. Kiss It Off 6. Fool Yourself 7. Walkin All Night 8. Fat Man In The Bathtub 9. Juliette 10. Lafayette Railroad ※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。 |
※発売時期や国によって多少ジャケットが異なりますので、ご了承ください。ジャケット・デザインは2枚目の「SAILIN’ SHOES」同様ネオン・パークですが、パーティ・ドレスを着て着飾った貴婦人の周りをアコーディオンが囲むような絵で趣があります。しかし、この女が大した食わせもの(詳しくは曲解説で)。
ベースのロイ・エストランダが脱退、アルバムが一向に売れる気配もなく、バンドはいったん解散状態になるのです。
しかし、ローウェル・ジョージはキーボードのビル・ペインとドラムスのリッチー・ヘイワードは従来のままに、ポール・バレルというセカンド・ギタリスト(彼はLITTLE FEATのベーシストのオーディションを3回受け、3回とも不合格になった経歴の持ち主ですが、ギターの腕を買われて加入したのです)、それにデラニー&ボニーのバックをしていた、ベーシストのケニー・グラッドニーも加入。さらにケニーとともにデラニー&ボニーのバックをしていたコンガ奏者サム・クレイトンも加入し、6人組して再出発となったのです。
ケニーとサムがどちらもニューオリンズ出身であり、ポールもニューオリンズサウンドに傾倒していること、さらに、ローウェルがヴァン・ダイク・パークスのアルバム・レコーディングに参加したことで、当時のニューオリンズ・ファンクの総元締め的存在だったアラン・トゥーサンの音楽に惹かれて行ったことで、LITTLE FEATの音楽は一気にニューオリンズのファンキーな香りがし始めることになるのです。このアルバムのタイトルにある“dixie”もアメリカ南部を表す総称です。
このアルバム「DIXIE CHIKEN(ディキシー・チキン)」はLITTLE FEATのアルバムの中でも名盤中の名盤と言われているアルバムです。名盤と言われる作品の中には初めて聴く人でも、すぐにその良さが理解できる、いわば“ひとぎき惚れ”タイプのものと、何度も聴いている間に徐々にその良さが理解できるようになる、“気づいたら好きになっていた”タイプのものに分かれると思います。LITTLE FEATのこの「DIXIE CHIKEN(ディキシー・チキン)」は後者のタイプではないかと思います。音楽自体もかなりクセがあり、またこの歌詞の内容が人生を重ねないと理解できないような深さがあるからです。
アルバム・プロデュースも初めてローウェル自身が手がけています。
1曲目タイトル曲でもある“Dixie Chicken”曲はローウェルとマーティン・キビーという人の共作。“chicken”はこの場合は若い娘の意味です。
低いベースが同じ音を続けたあと少し、けだるそうなテンポで入るホンキートンク・ピアノが特徴的です。このフレーズを聴くと、LITTLE FEATだと思えるくらいの代表曲になっています。(アルバムを通して聴ける)ボニー・ブラムレット、ボニー・レイット、グロリア・ジョーンズと言った豪華な女性コーラスも聞き物です。
この歌にはすごい物語があります。メンフィスに行って安宿に泊まっていた男が街灯の下で、地元の小奇麗なオネエチャン(Dixie chicken)と出会うのです。そのオネエチャンが男を川に連れて行って、こう歌ったのです。「もしもおまえが俺の南部のカワイコチャン(Dixie chicken)になってくれるなら、俺はおまえに首ったけのテネシー生まれのいかれポンチ(Tennessee lamb)になってやる。そして俺たちゃふたりしてずっとこの南部を渡り歩くのだ。ディキシーランドをずぅっ~とね」
二人はその後大酒を飲み、やがて男の意識は朦朧とする。いつ教会の鐘が鳴ったのか、いつ金を払ったのかも忘れてしまった。女が去ってしまって、唯一覚えているのは、女がよく口ずさんだするあの歌のフレーズと、一緒に夜を共にした記憶だけ。
女が男のもとから去り、一年後のある夜。男は昔泊まったメンフィスの安宿のロビーで、一人のバーテンダーに会ったのだった。そしてあのオネエチャンのことを良く知っているというそのバーテンダーは酒場で男にグラスを差し出しながら、ある歌をハミングし始めた。すると酒場の男たちみんなも声を合わせてこう歌い始めた。「もしもおまえが俺の南部のカワイコチャンなってくれるなら、俺はおまえに首ったけのテネシー生まれのいかれポンチになってやる。そして俺たちゃふたりしてずっとこの南部を渡り歩くのだ。ディキシーランドをずぅっ~とね」
この男が知り合ったオネエチャンは地元じゃ超有名な尻軽女だったという落ちがつき、この物語は終わりになるという訳です。たった3分ちょっとの曲で、これだけのドラマを演出するこの歌のすごさ!。
“Dixie chicken”と“Tennesee lamb”を対比させた歌詞がしゃれてますね。chickenは元々「鶏」、lambは「仔羊」の意味ですが、スラングではそれぞれ、「若い娘」と「坊や(無邪気で子どもっぽい人、優柔不断な人)」を表しています。DixieとTenneseeも上手に韻を踏んでいますし、ローウェルはなんと頭のいい脚本家なんでしょうね。
2曲目“Two Trains”・・・この曲はローウェルの単独の作品。ニューオリンズ・ファンク・テイストの曲。ローウェルのボトルネック・ギターがここちよいミドル・テンポの曲。
3曲目“Roll Um Easy”・・・これもスローでファンキーなローウェル作の曲。
4曲目“On Your Way Down”・・・アラン・トゥーサンの作。シンセサーザーっぽい音のキーボードの入り方などがTRAFFICを思わせるような渋いスローテンポな曲。ディストーションの効いたポール・バレルのギターも哀愁が漂っていていい。
5曲目“Kiss It Off”・・・ローウェル作。インドを思わせるような太鼓とシタールっぽいサウンド。かつてのFREEサウンドを思わせるような歌の旋律ですが、いきなりシンセサイザーが入ったりして、かなり幻想的でもあります。
6曲目“Fool Yourself”・・・のちにLITTLE FEATのメンバーとして参加するフレッド・タケットの曲。C&Wっぽいサウンドも醸し出すCSN&Yっぽいコーラスが入った心地良い曲。
7曲目“Walkin All Night”・・・ビル・ペインとポール・バレルの共作。リード・ボーカルはポール・バレル。
8曲目“Fat Man In The Bathtub”・・・ローウェル作。自分自身を歌った歌か?リズムがかなり変則的なのだが、これがニューオリンズ・ファンクらしい。リッチー・ヘイワードのドラムスが、新たにパーカッション・プレヤーが参加したこともあってかかなりかなり前作までと違うリズムを叩き出すようになっていますね。全員がこのグルーブに乗れるっていうのが凄いです。
9曲目“Juliette”・・・ローウェル作。「ロミオとジュリエット」に引っかけたのか、男のつらい恋愛を歌いつつも、女性のつらさにも思いをはせるジャズっぽい歌。ピアノとフルートが入るせいかこれもTRAFFICっぽい。
10曲目“Lafayette Railroad”・・・ローウェルとビルの共作。彼らにとっては初めてのインストゥルメンタル。ローウェルのボトルネック・ギターが光ります。
これが玄人受けする作品というのでしょうね。作品的にはかなり地味で暗いイメージです。セールス的にはまだ今イチですが、LITTLE FEATの色がかなり鮮明になったアルバムと言えるでしょう。取っつきの悪さは独特のリズムにあるでしょう。手拍子なんてできないような、うねりのあるリズムですからね。
聞き込むほどに味の出る渋い作品です。日本人はローウェルの歌う歌詞の裏に潜む真の意味を理解しないと本当のLITTLE FEATの面白みは理解できないでしょうけど。桑田佳祐さんがローウェルに傾倒しているというのはそういうしゃれっ気の精神をすごく好きなんでしょうね。
ディスカッション
コメント一覧
的確なLittle Featのご紹介、興味深く読ませていただきました。このアルバム発売以来、40年聴き続けて全くあきることのない私にとっても名盤中の名盤、無人島に持っていく一枚です。
さて、Dixie Chicken歌詞の解説ですが、昨年のrecord collector誌に連載していたGeorge Cockle / Rock Lyric Land Scape 第38回 「リトル・フィート『ディクシー・チキン』魅力的なコーラスに潜む裏の意味が楽しい」によれば、貴殿が解説するオチは同じなのですが、ChickenとRambの立場が逆になっています。あえて女性コーラス(これも凄いメンツですよね)に歌わせているところを聞くと、こちらが正解なのではと思えます。
akiraさん、コメントありがとうございます。
私が初めてこのアルバムを聴いたのは高校生の時でしたが、その頃はまだこのアルバムの渋さが理解できなかったというのが正直なところです。当時はこの次の「Feats Don’t Fail Me Now」のほうが好きでした。
ご 指摘の点、異論・異訳があるのは存じています。
しかし、迷った末、私はdixie chicken=女性、と理解しました。大きな理由はアルバム・ジャケットにこの 曲の主人公っぽい女性が描かれており、アルバム・タイトルも「DIXIE CHICKEN」であることからすれば、そのタイトルは女性のことを示していると解するのが自然であり、またインパクトも強いと考えられるからです。女と関係を持ち、翻弄されたであろう間抜けな(笑)男たちが、女のことを歌うラストシーンを想像すると、むしろ私の訳したように考えたほうが面白いのではないかと思うのです(勿論、断言するほどの確証がある訳ではないですが)。
いずれにしても、ドラマ性のある楽しくクールな歌ですよね。年を重ねれば重ねるほど、よくなって来る曲の 1つです。
子供に連れていかれたフェスで、今時の若いバンドがデルタ・ブルースを独自の解釈でプレイしていた
のに触発され、仲間内で何かやりたいと考えて最初に浮かんだのがリトル・フィートでした。ここ数年程はニューオリンズ・スタイルのピアノでの弾き語りが気に入っており、長年聞きこんできたドクター・ジョンやプロフェッサー。ロングヘアーなどのスタイルの練習が日課となております。若い頃にはバンド・スコアなど無くビル・ペインのプレイには心酔しつつも高いハードルでありました。最近あらためて(35年ぶり?)演奏してみると管理人の意見には非常に共感できます。起承転結という意味でのメリハリの無い楽曲が多いと感じた若い頃とは違い、まさに人生の紆余曲折を経て心に沁みるものがあります。バラードな楽曲でのロウエルのタメの効き具合には脱帽です。ロウエルのトリビュート・アルバムでの桑田圭祐の選曲には誰も異論の無いところではないでしょうか。若い頃の一時期やっていたブルース・バーにも当時必死で見つけた「デイキシー・チキン」のバネルを飾り一人悦に入っていたものです。私にはネオン・バークのジャケットは情報の少なかった70年代ロック当時のイメージそのものであります。
大型さん、書き込みありがとうございました。
コメントを表示するのが大変遅くなって本当に申し訳ないと思っております。
ここのところ、母が認知症になって日々の介護に時間を割かれ、このサイトに割ける時間がなくなってしまい、放置しておりました。
お褒めいただき恐縮です。もともと性格が斜に構えるほうなので、リトル・フィートというかローエル・ジョージの造り上げる世界はセンスとクールさをずっと感じていました。
でも、こんな人って長生きしないのですよね。私のような凡人に限って、長生きします(汗