時は過ぎ去りてーイーグルスDVD「ヘル・フリーゼズ・オーヴァー」レビュー

2020年12月17日

“hell freezes over”/EAGLES(2004年5月購入)
  ★★★★★

2004年7月2日一部加筆・訂正

 1994年、イーグルス再結成時のライブを収めたもの。イーグルスといえば、日本でも普段は演歌しか聴かない水商売のお姉ちゃんやトラック野郎でさえ買ったと言われる1976年に発表された「Hotel California」のアルバムがあまりにも有名だが(世界中では約1100万枚のセールスがあるそうだ)、もともとはカントリー・ロックのリンダ・ロンシュタットのバックバンドをしていたこともあるように、彼らの音楽のルーツもカントリー・ロックにある。

 DVDはメンバーたちが再結成のいきさつをしゃべるところから始まる。
 メンバー同志の確執があって、結局解散してしまったようだが、音楽的にいうなら「Hotel California」というパーフェクトなアルバムを作り出してしまい、以降これをしのぐ音楽を作り出すことが不可能だったことが解散の原因になったといえるだろう。
 事実、イーグルスは「Hotel California」に続く「The Long Run」(1979年)というアルバムを長いインターバルののちに発表したが、不朽の名作「Hotel California」を超えることはできなかった(個人的には「The Long Run」というアルバムは結構好きなアルバムだ。渋い曲が多く、彼ら独特の社会に対するアイロニーを込めたメッセージソングも多いし、ティモシーBシュミットという才能ある新メンバーを加えて、一層ハーモニーを厚く美しいものにしている。ただし、「Hotel California」のように軸になる曲がない)。
 1980年イーグルスは解散し、メンバーはそれぞれソロ活動を始めた。一番精力的にアルバムを発表したのはジョー・ウォルッシュだと思うが、セールス的に成功したのはドン・ヘンリーなんだろう。しかし、彼も一時期幼女暴行容疑で捕まり、社会奉仕命令を受け、苦労した時期もあったようだ(ソロ・コンサートでイーグルスの曲を歌っても、やはり色あせて聴こえていた)。グレン・フライはアメリカの人気連続ドラマ「マイアミ・バイス」にたしか麻薬の密売人の役で出演し(この番組は毎回のようにミュージシャンが役者としてゲスト出演していた。日本でも一時期テレ朝系で放送されていた)、その演技が絶賛を浴び、一時期映画やテレビに役者として出演していた。

 リード・ギタリストのひとりドン・フェルダーはイーグルスにいたときは、黙々とギターを弾いて いたのにイーグルスの解散後のソロ・アルバムでは彼自身がリード・ボーカルを取っており、これが予想以上にうまかったので、ビックリした。ベーシストのティモシーBシュミットはソロ・活動のかたわら数多くのミュージシャンのアルバムにゲスト出演し、得意のファルセット・ヴォーカルで美しいハーモニーを聴かせてくれた。
 さてこのDVDだが企画はMTVということもあって、当時流行だったアンプラグドショーからライブは始まる。オープニングは“Hotel California”だ。解散から14年の月日が過ぎたというのに、それを感じさせないような見事な演奏とハーモニー。しかし、月日の流れは精力が有り余っているように思えたジョー・ウォールッシュに老眼鏡をかけさせるに至っていた・・・(もっとも、ドン・フェルダーは昔はやしていたヒゲをばっさりと剃り落とし、逆に昔より若々しく見えるが・・・)。この“Hotel California”のギター・アレンジはスパニッシュ風だった。あのジプシー・キングスがカバーしてかなり売れたアレンジを彼らも意識したのだろうか。
 演奏される曲のどれもが名曲だ。古い曲も新曲も・・・。イーグルー鳥の中で王様格のその鳥・・・それはアメリカの国鳥でもある。しかし、彼らはアメリカという国の強さと弱さを知っていた。だからこそ、逃げ場のないアメリカ国民を皮肉って“Hotel California”を作った。「このホテル(社会)はチェック・インはいつでもできますが、いったん入ったら二度とチェック・アウトはできませんよ」と。彼らが歌に込めるメッセージは強権的な政治家たちへの辛口だった。
 ライブは後半、プラグドのライブになり、ドン・ヘンリーもドラムを叩きながら渋い歌声を聴かせてくれる。「Hotel California」収録の“Wasted Time”などではストリングスも時折入り、音に厚みが増す。
 このライブを観ながら1979年に観に行った彼らの武道館公演のことを思い出していた。メンバーはいろんな楽器の演奏ができるので、1曲終わると次に演奏する楽器のところにすたすたと移動するのだ。もちろんこのライブではそんなところまでは映していないが、20年以上も前に観たコンサートの印象が甦り、非常に懐かしかった。
 ドン・ヘンリーは「Hotel California」の中の名曲“Last Resort”の曲紹介でこう語った「アメリカは勝ったが、多くのものを失った」と。
 その発言はイラク戦争のアメリカのことを言っているかのようでもあったが、もちろんライブは20世紀のものなんで彼が知る由もない。「歴史は繰り返す」ということだろう。
 このライブの模様を収めたライブCDはかなり前から持っていて、何度も繰り返し聴いていたが、やはり百聞は一見に如かずというかCDはDVDにはかなわない。
 DVDを観ながら、武道館で観たときには、1曲1曲に感動しながらも徐々に近づいて来るエンディングを思い、段々憂うつになったのを思い出した。「このままずっとずっとこの心地よい音楽を聴きつづけていられたらどんなにいいだろう・・・」と思ったものだった。

 エンディング・ロールの曲のクレジットには記載のある“Best Of My Love”など数曲が含まれていないのが寂しい(アメリカのMTVや日本のWOWOWで放送されていたときにはあったそうだ)。しかし、それまでイーグルスのまとまったライブ映像というものがなかったので、こうしてまとまって観られるというのは非常に嬉しいことだ。しかも、5.1chサラウンドで。
 今後、全盛期のイーグルス・ライブ画像がまとまって登場することにも期待しつつも、何度も繰り返し観ることのできるこの映像に感謝をしたい。
 最後にDTS再生装置がある人にだけ聴ける“Seven Bridge Road”のボーナス・トラック(音のみ)も入っている。