PRESENCE/LED ZEPPELIN(プレゼンス/レッド・ツェッペリン)
1.Achilles Last Stand 2.For Your Life 3.Royal Orlean 4.Nobody’s Fault But Mine 5.Candy Store Rock 6.Hots On For Nowhere 7.Tea For One ※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。 |
仕事が多忙だったとは言え、3年間も新レビューが書けなかったことをお詫び申し上げます。ツェッペリンで止まってましたね。
この「プレゼンス」というアルバムはツェッペリン通算7枚目のスタジオ・アルバムです(アメリカでは1976年3月発売)。前作の「PHYSICAL GRAFFITI(フィジカル・グラフィティ)」のセールスが絶好調で、1975年はツアー開始直前にジミー・ペイジが電車のドアに指を挟まれてで負傷し、ツアーの開始が遅れたり、ロバート・プラントがインフルエンザに感染し3公演が中止となったり、さらにアメリカ各地でチケットを求めてファンが暴動を起こすなど、トラブル続きとなったが、セールス的には大成功となった。そのため収益も莫大となりイギリスは高所得にはかなり高額の税金が課されるため(労所得の最高税率83%、資本所得は15%の付加税を入れて98%という恐ろしい税率でした。ー資料:橋本恭之氏著の「イギリスの税制の現状について」」)、メンバーたちはこの税金を逃れるために長くを海外で過ごすことを余儀なくされていた(イギリス法律では一定期間以上、海外で暮らす者には軽減税率が適用されていた)。
1975年はその後もプラントが乗ったオートバイが事故を起こすなど、御難続きだったようで、後期のアメリカ・ツアーも中止し11月からレコーディングに入ったようです。スタジオの都合もあり、結局3週間のレコーディングしかできなかったようで、12月にはミキシングも完成したようで、プロデュースを担当したペイジとエンジニアは地獄の忙しさだったようだが、その切迫感がかえっていい緊張感となったとペイジは語っているようです。
ペイジは個人的にはこのアルバムがツェッペリンのアルバムの中では一番のお気に入りだそうだ。楽器はギター、ベース、ドラムスがメインで、アコースティック・ギターさえ“Candy Store Rock”でしか使われていないオーソドックスな楽器編成となっています。
私も前作は2枚組で長すぎて、いささか食傷気味(失礼!)だったので、ソリッドで従来のZEP節が戻って来たように思える(とはいえ、いろいろ新しい試みもありますが)このアルバムは好きな1枚です。
なお、ジャケットはピンク・フロイドの多くのジャケットや1980年代のイエスのジャケットをデザインしているヒプノシスという集団とジョージ・ハーディーという人によるもの。真ん中に映る黒い物体は
「オベリスク(Obelisk)」というものだそうで、アルバム・タイトルも 「オベリスク(Obelisk)」となる予定だったらしいが、デザイナーが発した「このバンド(ツェッペリン)には絶対的な存在感(Presence)がある」という言葉に共鳴を受けたペイジが、最終的に『プレゼンス』と名付けたとのことのようです。
前置きが長かったですが、以後、各曲のレビューを。
1曲目“Achilles Last Stand”(邦題は“アキレス最後の戦い”)。10分を超える大作です。ギターのリフがカッコいい。ストレートでギターソロも冴えてます(速弾きとは言えないが)。わざともったいぶってタメて弾いてる感じで、それがまた味です。プラントの高音も生かされてます。1977年のアメリカン・ツアーからライブの定番となり、常にコンサート終盤のハイライトとして演奏されていました。
ペイジはこの曲のギターは“Dazed and Confused”のライブ演奏のギター・ソロをモチーフにしたと言っています。女性姉妹バンドのHEARTがこのリフを踏襲したような“Barracuda”という曲を作っていますね(彼女たちはZEPの大ファンだというのを明らかにして、ライブではカバー曲も歌っていますね)。10分を超える大作ですが、エンディングのスロー・テンポになるところまで飽きないですね。
作詞はプラントですが、アメリカ・ツアー後に「行ったモロッコ・ギリシャ・スペインの旅行時や当時読んだイギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの詩集の印象に由来する古代ギリシャの神話がモチーフにあっているようです。
かなり抽象的で、歌詞の中にアトラスとかアルビオンとかいったギリシャ神話に出て来る名前は登場しても、ギリシア神話の英雄アキレウスの名は登場していません。弱点という意味で「アキレス腱」という表現があるように、アキレウスは闘いの最中にかかとを射られて負傷しながらも闘ったーその姿をプラントは1975年8月に起こしたオートバイ事故を起こし足首に重度のケガを負ったこととダブらせ、作った歌のようです。
ちなみにプラントはこの時の事故で約1年間の車椅子生活を余儀なくさて、このアルバムのレコーディング中もほぼ車椅子に座っていたようです。座ったままで、これだけの歌唱ができるプラントはやはりただ者ではないですね!
2曲目“For Your Life” ミドル・テンポで重厚感のある旋律。ペイジには珍しくトレモロ・アームを使ったギターを弾いています。ドラッグを題材にしたしかもかなりセクシーな歌です。1974年に声帯を痛めて以来、プラントが高音が歌いづらい様子がこの曲にも出てますが、それでもこの味は彼しか出せないですね。
解散までライブで演奏されることは一度もなかったようですが、2007年の再結成コンサートでは演奏されていて「おお!」と思いました。
3曲目“Royal Orleans” タイトルはニューオリンズにあったホテルの名前とのこと。そこに宿泊していたジョン・ポール・ジョーンズのベッドの中に同性愛者の男性が忍び込んでいたという実話をモチーフにした歌で、これもかなり18禁の歌になっております。ブレイクしたあとのタメがカッコいいですね。ZEPの真骨頂のメロディ・ラインで、3分と短い曲ながら魅力満載の曲です。
レコードですとA面はここで終わり。
4曲目“Nobody’s Fault But Mine” プラント=ペイジの作となっていますが、Blind Willie Johnsonがオリジナルというべきでしょう。邦題は“俺の罪”。
ツェッペリン・ヴァージョンもカッコよく、ボーナムのドラムの入りやブルース・ハープが心地よいです。1979年のKNEBWORTHのフェスのライブ映像が残っていますが、思わず見入ってしまいます。
下のほうは本家の音源です(音のみ)。ZEP解散後、発表した「プラント=ペイジ」のコンビ・アルバムではオリジナルに近い形で演っています。2007年の再結成ライブで演奏された際は、プラントはビリー・ウィリアム・ジョンソンへ謝意を述べていました。
5曲目“Candy Store Rock” お菓子ではなく、ヤクの売人を歌った歌です。ロカビリーっぽいノリのいい歌。プラントのエルヴィス・プレスリー好きは有名で、初来日時の大阪公演などはメドレーで歌ってたとか(ちなみにPURPLEのイアン・ギランもプレスリー大好きです。年代的なものもあるようですが)。ボンゾー(ボーナムの愛称)の小刻みなドラムイングも乙(おつ)なものですね。
6曲目“Hots On for Nowhere” プラントが詩を書いたこの曲はペイジやマネージャーのピーター・グラントへの皮肉が込められているとも言われています。3つのリフが繰り返し、繰り返し出て来ており、若い頃、ドラッグを始めたことを後悔するような言葉も出て来ます。ベース・ラインが地味ながら(ジョン・ポール・ジョーンズはいつものことですが)、その刻むリズムの上で軽快に踊るギターのフレーズとプラントの歌(&オーバー・ダブによるコーラス)。ギター・ソロも少しおどけた感じですが、内容はかなりシビア。そこが重すぎない感じにしてくれていいのでしょうが。
そして、ラストの7曲目。“Tea For One” アップテンポではじまったかと思いきや、いきなりサード・アルバムに入っていた“Since I’ve Been Loving You”のようなスローなブルースになります。ペイジディストーションの効いたギターが悲壮感を盛り上げてくれます。タイトルは1920年代にアメリカで流行った歌“Tea for Two”をもじっています。
「どうして24時間しか過ぎてないのに 何日も過ぎたように感じるのだろうか? 1分がまるで一生のように思えてしまう。 君と別れるという道を選び もう元に戻ることも出来ない」という別れの歌ですが、当時、イギリスに定住できなくなったメンバーたちの悲哀を重ねた歌とも取れ、心が熱くなります。
エンディングにふさわしい名曲と言えるでしょう。
このアルバム「PRESENCE(プレゼンス)」は1976年3月31日、アメリカで発売された。ビルボードのチャートに24位で初登場し、翌週には首位に躍進する勢いでした。当時は鳥を落とす勢いの人気ですから当然と言えるでしょう。
不思議なことに、これほどまでによく出来たアルバムなのにツェッペリンの全スタジオアルバム8作のうち、最も売り上げが少ないそうです。それは同じ1976年の10月に発売されたZEP初のアルバム「THE
SONG REMAINS THE SAME-永遠の詩(狂熱のライヴ)」が原因だと言われています。多くのファンはティーン・エイジャーと言われるハード・ロック・グループだけに、少ないお小遣いをやりくりするのは大変だったでしょう。
こういうこともあってか、ライブでは新曲の大半を披露していたツェッペリンが、このアルバムからは“Achilles Last Stand”と“Nobody’s Fault But Mine”しかプレイされず、ペイジも過小評価されているアルバムだと嘆いているようです。
上の動画は「ペイジ=プラント」で来日した時の武道館公演時の“Tea For One”
リマスターされた時、同時に発売された2枚組(未発表ヴァージョン入りやレコードも入ったデラックス盤も出ています
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