PHYSICAL GRAFFITI/LED ZEPPELIN (フィジカル・グラフィティ/レッド・ツェッペリン)

2020年4月18日

 

PHYSICAL GRAFFITI / LED ZEPPELIN

DISC 1

1. Custard Pie

2. The Rover

3. In My Time of Dying

4. Houses of The Holy

5. Trampled Under Foot

6. Kashmir

DISC 2

1. In the Light

2. Bron-Yr-Aur

3. Down by the Seaside

4. Ten Years Gone

5. Night Flight

6. The Wanton Song

7. Boogie With Stu

8. Black Country Woman

9. Sick Again

※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。

 レッド・ツェッペリンの6枚目のスタジオ・アルバムにあたる「PHYSICAL GAFFITI」。邦題もそのまま「フィジカル・グラフィティ」。タイトルを文字通り訳すと、肉体の落書きという意味になります。ジミー・ペイジの案によるものだそうで、アルバムを一作生み出すのに、かなりの労力を費やすことを暗示したかったようです。ツェッペリンで唯一、オリジナル・スタジオ・アルバムとしては2枚組で発表された大作です。

 サード・アルバムからの録りだめていた作品に、新録音の約LP1枚分の曲をプラスした形で発表されています。

 実は、映画「熱狂のライブ」の追加映像を撮影後、1973年の11月からメンバー4人はすぐに例のヘッドリィ・グランジでレコーディングに入ったようですが、ツアーにつぐツアーで嫌気が差していたジョン・ポール・ジョーンズが脱退の意志を表明したため、マネージャーのピーター・グランドのアドバイスにより、セッションはいったん休止し、1カ月ほどオフとし、12月に入って、気分を一新したジョンも加わりメンバー4人(とイアン・スチュワート)が再び集まることになったそうです。曲のレコーディングやミキシングは74年のなかばにはほぼ終了していたようですが、新たに起ち上げることになっていたみずからのレーベルのスワンソングスや当アルバムのジャケットの準備と多忙となり結局、アルバム発表は1975年の2月となってしまったようです。

フィジカル・グラフィティ ジャケット1ジャケットはニューヨーク市の実際に存在したアパートをモチーフにして、外ジャケットは袋状で丈夫から中袋(レコード入れも兼ねている)を出し入れするようになっており、中の袋にはメンバーのプライベート写真や有名人の写真が随所に印刷されており、外袋のアパート写真の窓部分がくり抜いてあり、中袋を入れ替えることによって、いろんな写真が表示されるようになっているものでした。

 またアルバムのタイトルを表示することも可能でした(別の紙が同封されていました。現在発売の紙ジャケットのCDでも同様のことができるようです)。

 肝心の曲に関してですが、旧録音の寄せ集め+新録音にも関わらず、トータルとして散漫という印象にはなってないと思います。昔は2枚組には名作なしなどと言われていたようですが(たとえばBEATLESの「WHITE ALBUM」など)、このアルバムはなかなかの力作だと思います。

 では、個々の曲をみていきたいと思います。

 DESC1の“Custard Pie”。オープニングにしては、地味めの曲だと思います。BLIND BOY FULLERの’I Want Some Of Your Pie' 、Booker Whiteの'Shake 'Em On Down'、そしてBrownie McGheeの’Custard Pie Blues’など、アメリカの黒人デルタ・ブルースにインスパイヤーされて生まれた曲と言われていますが、作者はペイジ&プラントとクレジットされています。
 途中、思いっきりディストーションの効いたペイジのギター(当時はやったARPシンセサイザーで音を処理していると言われています)やプラントのマウス・ハープなどがフューチャーされたミドルテンポの曲で、渋さが光ります。

 2曲目、“The Rover”。邦題は“流浪の民”。前作「HOUSES OF THE HOLY」からのアウトテイクと言われていますが、実は1970年にはアコースティック・ナンバーとして録音されたがうまくプロデュースできず、持ち越されて来た曲だということのようです。
 バスドラのあと、ページのソリッドなエレキギターのフレーズが響き、いかにもZEPのハード・ロックといわんばかりの心地良い曲。
 このアルバムまで引っ張って、練っただけのことはある仕上がりになっていると言えるでしょう。

 3曲目、“ In My Time of Dying”。邦題は“”死にかけて。トラディショナルな曲のカバーで、1962年には、ボブ・ディランもカバーしている。⇒参照
 同じ曲?というくらい違ったアレンジになっていますが、どちらも味がある仕上がりだと思います。
 ツェッペリンのバージョンは、ボーナムのバス・ドラムの迫力がとにかく凄すぎます。10分を超える大作ですが、嫌味のない曲だと思います。

 4曲目“Houses of The Holy”。5枚目のアルバム・タイトル曲ながら、収録されなかった曲。淡々としながらもダンサブルなその曲調からして、1枚分のアルバムに入れるにはためらうタイプの曲と言えるかも知れません。
 ロバートのハイトーン・ボーカルが冴える曲。

 5曲目“Trampled Under Foot”。黒人ブルース・プレヤーのロバート・ジョンソンの“Terraplane Blues”を元に制作されたとのちにロバート・プラントが語っていますが、似ているパートは一部です。
 ツェッペリンのこの曲はロックンロールっぽい仕上げになっています。
 ジョン・ポールの弾くクラビネットがいいアクセントになっています。このクラビネットのアレンジが、当時スティーヴィー・ワンダーの“Superstition”(もともとJeff Beckにスティービーがプレゼントした曲でしたが、Beckがバイク事故で長期入院を強いられ、なかなかレコードにしなかったことから、スティービーがみずから先にシングル化して発表したと言われる名曲です)に似ているとか、歌メロの一部がドゥービー・ブラザーズの“Long Train Runnin’”に似ているなどと指摘されたと、ウィキペディアに書いてありますが、個人的にはそれほど似ているという感覚はなりません。
 意識的にか、ディスコっぽいアレンジになっていることから、日本でも全盛期を迎えていた六本木などのディスコでは、よくかかっていた曲なのだそうです(ディスコなんて行ったことがないので、あくまで伝聞です)。

 6曲目“Kashmir”。ジミーは、この曲のフレーズはYARDBIRDS時代の“White Summer”という曲を作った時から完全な形で実らせたいと思っていたようです。ジミーとロバートがふたりでスタジオにいるとき、ジミーが頭にあった2つのフレーズをギターで弾き続け、それを録音しておくように、スタッフに申しつけ、そのサウンドを元に仕上げて行った曲なんだそうです。
 基本的には3つのコードで淡々と進んで行く曲ですが、非常に荘厳な趣きがあり、ツェッペリンの後期のライブでは重要なライブ・レパートリーとなる曲です。
 ロバートがこのベースのリフに歌詞を付け、アレンジをだんだん膨らませていったようです。ツェッペリンには珍しく、メンバー以外が演奏するストリングスや管楽器もアレンジとして加えているので、壮大さを増しています。
 ロバートは特にこの曲をずっと誇らしく思って来たとのこと。
 ギターのチューニングが1弦から順にD-A-D-G-A-Dとなっている特殊なチューニング(弦の音程から「ダドガド」チューニングなどと呼ばれたりしています)です。ジミーはこの響きが気に入っているようで、デビューアルバムに収録されている“Black Mountain Side”でもこの「ダドガド」チューニングで弾いています。哀愁を帯びたケルト音楽と相性のいいチューニングのようです。
 この曲もまずは「ダドガド」チューニングありきで進めて行った曲なんだろうなと推察します。

フィジカル・グラフィティ ジャケット2

 さて、DISC2に行きます。ちなみに、レコードでも、CDでも2枚組で、レコードでもここからが2枚目になっています。1曲目は“In The Light”。ジミーはこのアルバムで一番お気に入りだそうです。たしかに間奏で入るギターソロは、実はC&W好きと言われる彼の好みかも知れません。
 イントロはバグパイプかと思わせるような、ジョン・ポールのハモンド・オルガンの音から始まります。どこかで聴いたような懐かしさがあると言えば、くさして聞こえるかも知れませんが、それほど難しいことをやっているのではないのに、いかにもツェッペリンらしい正統派の音とでもいうのでしょうか、風格を感じる曲です。
 2曲目“Bron-Yr-Aur”。アルバム「III」のアウトテイク。「III」のアルバムっぽい、アコースティックなインストルメンタル・ナンバー。ジミーの12弦ギターのハーモニーが美しい。このアルバムまで発表を持ち越したのが勿体ないと思える仕上がりだと思います。プレイしているのはジミーだけのようなので、自分のソロアルバムにでも収録するつもりでいたのかも・・・(あくまで推測ですが)。
 3曲目“Down by the Seaside ”。こちらはアルバム「IV」のアウトテイク。最初はカントリー・ブルースのようなのどかな曲調ですが、途中でテンポが速くなり、また最後はのどかな農場の風景を思わせるような牧歌的なメロディとなるという展開の妙がある曲。ジョン・ポールのエレピがいい味出してます。たしかに、のイメージとはかけ離れたサウンドなので、未収録だったのもうなずけます。
 4曲目“Ten Years Gone”。淡々と盛り上げていく曲調はハードロックとは言いがたい。むしろクラシックのように滑らかに荘厳に流れていくサウンドは、トータルバランスが取れています。2枚組だからこそできた冒険のようにも思えますが。
 5曲目“Night Flight”。曲調はアメリカン・ロックの雄THREE DOG NIGHTとでも言えばいいのでしょうか?ハモンド・オルガンもそれっぽいドライな音。楽しい感じの曲です。
 6曲目“The Wanton Son”。“Immigrant Song”に似通ったフレーズが印象に残ります。ジョン・ボーナムの太鼓が光る曲。
 7曲目“Boogie With Stu”。アルバム「IV」のアウトテイク。リッチー・バレンというアーティストの“Ooh, My Head”が原曲とされています。ホンキートンクピアノがフィーチャーされた乗れる曲です。
 8曲目“Black Country Woman”。「HOUSES OF THE HOLLY]のアウトテイク。録音開始に飛行機が飛ぶ雑音が入って、気にせず行こうという会話が冒頭に入っています。いかにもセッションっぽいですね。
 ちなみにウィキペディアによると、このナンバーのタイトルは、和訳すると“ど田舎の女”になるそうです。“black”はここでは、黒ではなく、“country”を強調する意味なんですね。
 和気藹々とアコースティックなナンバーをやっていますが、間奏で入るロバートのハーモニカにも味がありますが、ジャムっている間に録音完了というようなラフな作りも素敵(実際には音を重ねてミキシングしています)。
 9曲目“Sick Again”。アルバムの最後を飾るにふさわしい渾身のハードロック。ジョン・ボーナムの存在感のあるドラムスはツェッペリン・サウンドにはなくてはならないものだということを痛切に感じさせてくれる曲と言えるでしょう。

 2枚目はやや散漫で飽きるという人もいるけれど、私はツェッペリンのクールでアダルトな部分を感じさせてくれるパートのように考えます。ロバート・プラントが現在やっているスタイルからすると、2枚目の主な曲こそロバート自身が好んだ曲調ではなかったかと推察されます。

 このアルバムは、ツェッペリンが作った「Swan Songs」というレーベルの記念すべき初めてのアルバムでもあります。レーベル名の由来は「白鳥は亡くなるとき、歌を歌い、その歌が非常に美しい」というヨーロッパでの古くの言い伝えから由来するものですが、左の絵のように白鳥の翼をつけた人間の男性の絵をデザインしたそのレーベルは、どうなんでしょうか?
 ともあれ、レコードの販売権をみずからで管理することで、レコード会社や中間搾取でおいしい汁を吸っていた輩へもたらされていた利益をしっかりと手中へと収めることが出来るようになった、独自レーベルの創設は彼らにはとっても意味深いものだったと言えるでしょう。

 名実ともに、レッド・ツェッペリンが音楽界のドンとなった感を与えるアルバムに仕上がったのが、このアルバムと言ってよいのではないでしょうか?

 


以下は40週記念でジミー・ペイジがリマスターしなおしたアルバム、未発表のデラックス・バージョン、それにLPレコードまでついたスーパー・デラックスバージョンに関しての概説です。

このアルバムに関しては他のアルバムに比べて、オリジナル・アルバムとリマスターとの違いがあまりないとの指摘が多いようです。正直私も違いがよく分かりません。

 この企画で特質すべきは、やはりボーナスCDとして加わった部分かと思います。

 曲リストは以下の通り

1,Brandy & Coke (Trampled Under Foot) [Initial / Rough Mix]
2,Sick Again (Early Version)
3,In My Time of Dying (Initial / Rough Mix)
4,Houses of the Holy (Rough Mix with Overdubs)
5,Everybody Makes It Through (In the Light) [Early Version / In Transit]
6,Boogie with Stu (Sunset Sound Mix)
7,Driving Through Kashmir (Kashmir Rough Orchestra Mix)

 日本語に訳すと、こんな感じ

1. ブランデー&コーク (トランプルド・アンダー・フット 初期ラフ・ミックス)
2. シック・アゲイン (アーリー・ヴァージョン)
3. 死にかけて (初期ラフ・ミックス)
4. 聖なる館 (ラフ・ミックス・オーバー・ダブ)
5. エブリボディ・メイクス・イット・スルー (イン・ザ・ライト 別歌詞/初期ヴァージョン)
6. ブギー・ウィズ・ステュー (サンセット・サウンド・ミックス)
7. ドライビング・スルー・カシミール (カシミール ラフ・オーケストラ・ミックス)

ボーナストラックはあくまで、おまけですので、マニアックなかた以外は通常盤で十分だと思います。