THANKS I’LL EAT IT HERE / LOWELL GEORGE (特別料理 イート・イット・ヒア/ローウェル・ジョージ)

2020年4月28日

 

THANKS I’LL EAT IT HERE / LOWELL GEORGE

1. What Do You Want The Girl To Do

2. Honest Man

3. Two Trains

4. I Can’t Stand The Rain

5. Cheek To Cheek

6. Easy Money

7. 20 Million Things

8. Find A River

9. Himmler’s Ring

※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。

※発売時期や国によって多少ジャケットが異なりますので、ご了承ください。ジャケット・デザインはLITTLE FEATと同様ネオン・パーク。ローウェルの肖像画で、背景は鬱蒼とした森で、ご馳走が山のようにあり、カストロ将軍らしき人とボブ・ディランらしき人とマレーネ・デートリッヒらしき人が座り、その後ろに背中に羽が生えたティンカーベルのような妖精がいるというミステリーな画像となっています。

 さて、この「THANKS I’LL EAT IT HERE」(邦題は“特別料理 イート・イット・ヒア”というタイトルですが、現在廃盤のようです)は、ローウェルがLITTLE FEATのサウンドが自分の思うのとは違う路線に進んでいるために、自分が作りたいように作りたいと思って制作した、彼にとって最初で最後のソロ・アルバムになったのです。

 バック・ミュージシャンには、LITTLE FEATのメンバーのビル・ペインやポール・バレルもいますが、他に、フレッド・タケット、ヴァン・ダイク・パークス、マーティン・キビーをはじめ、ジム・ケルトナー、ジェフ・ポーカロ、デヴィッド・フォスター、チャック・レイニー、ニッキー・ホプキンス等々豪華すぎるくらいのメンバーを参加させて完成させたのです。

 しかし、収録曲はわずか9曲(その後、CD化されて“Heartache”が追加されました)、約30分の短いアルバムです。しかも、その半分がカバー曲という作品です。こんなに制作を急いだのは、ローウェル自身自分の寿命がそう長くないと悟っていたためだと思われます。

 コンセプトとしては、ローウェルが自分の歌いたい歌を好きに歌うというもので、LITTLE FEATのあの、グリーブ感を期待したら肩すかしを食らうかも知れません。あくまでボーカルストとしてのアメリカン・テイストな楽曲を歌うローウェル・ジョージを楽しむというイメージで聴いたほうがいいと思います。

 1曲目“What Do You Want The Girl To Do”・・・アラン・トゥーサン作。ボズ・スキャッグスより一足お先にカバーしています。好みの問題ですが、私はボズのこもった声より、ローウェルの味ある声のほうが好きです。

 2曲目“Honest Man”・・・ローウェルとフレッド・タケット(のちにローウェルのいないLITTLE FEATに加入)の共作。女性コーラスやホーン・セクションを起用したおりゃれでファンキーなナンバー。

 3曲目“Two Trains”・・・「DIXIE CHCKEN」にも収録されていたセルフ・カバー。曲調ががらりと変わって、ニューオリンズっぽいサウンドに。

 4曲目“I Can’t Stand The Rain”・・・ANN PEEBLESの曲のカバー。ホーンセクションが効果的に使われていて、このアルバムでは珍しいローウェルのスライド・ギターも光っています。

 5曲目“Cheek To Cheek”・・・ローウェル、マーティン・キビー、ヴァン・ダイク・パークスの共作。メキシコ音楽に本格的にチャレンジしています。ハープを小さくしたようなアルパという楽器も入っていて(ハープと異なり、専用の爪をはめて弾くそうです)、異国情緒たっぷりです。

 6曲目“Easy Money”・・・私も大好きなリッキー・リー・ジョーンズの曲。かなりジャズっぽい編曲になっており、オリジナルとはかなり違ったイメージで、趣が違ってローウェル・バージョンも乙ですね。ローウェルのスライド・ギターも光ります。

 7曲目“20 Million Things”・・・ローウェル作。哀愁に満ちたこころに浸みるバラード。

 8曲目“Find A River”・・・フレッド・タケット作。アコースティックなサウンドに乗せてしっとり胸に響くバラード。ジャクソン・ブラウンが歌ってもいいような哲学的な曲でもあり、ローウェルのボーカリストとしても才能が引き立つ曲。人生を振り返ってしみじみと歌っているようです。

 9曲目“Himmler’s Ring”・・・ジミー・ウェッブ作。1950年代のアメリカの映画を思わすような、年代物のジャズにも通じる、あるいは日本音楽にも通じるようななんとも面白い曲。ローウェルは自分の人生も幕引きもあくまでも明るく爽やかにしたかったのでしょう。

 それにしても34歳で逝ってしまうとは早すぎます。オーバードラッグやオーバーアルコールが原因なのでしょうが、それらが彼の才能の源だとすれば責めるのもかわいそうな気もします。才能のある人はやはり早死にということなんでしょうかね。R.I.P.