HOUSES OF THE HOLY / LED ZEPPELIN(聖なる館/レッド・ツェッペリン)

2020年4月18日

 

HOUSES OF THE HOLY / LED ZEPPELIN

1. The Song Remains The Same

2. The Rain Song

3. Over The Hills And Far Away

4. The Crunge

5. Dancing Days

6. D’yer Mak’er

7. No Quarter

8. The Ocean

※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。

 レッド・ツェッペリンの5枚目のアルバムにあたる「HOUSES OF THE HOLY」。邦題はそのまま和訳した「聖なる館(やかた)」。ミュージシャンの聖なる場所といえば、ステージであることから、コンサート会場を意図したものなのだそうです。
 これまでは数字で呼ばれていたアルバムにメンバーが初めてタイトルをつけたことでも有名になりました。
 しかし、4枚目同様、アルバムにはタイトルもグループ名も印刷されておらず、白い横帯に黒文字でタイトルとグループ名が英語で印刷されていました。日本盤のレコードはこれ以外にいつも通り、縦の帯もついていました。

 レコーディングは1972年前半のうちにすんでいたようで、1972年10月、ツェッペリン2度目の来日公演の時には、このアルバムからも数曲演奏されています。

 アルバムの発売が世界同時で1973年3月28日となり(ジャケット・デザインの制作に時間がかかったために、かなり発売が延期されたようです)、ジャケットの完成が間に合わなかったせいか、日本ではすでに買ったジャケットを交換するようなことになった記憶があります(私も交換しました)。

 ジャケットデザインは、ロジャー・ディーンとならんでロック畑の多くのアーティストのデザインを手がけたヒプノシス(個人の名前でなく、集団の名前なんだそうです。英語では“Hipgnosis”と綴るようですが、正式には‘ヒッポコノシス’と発音するのが正しいと聞いたことがあります)が初めてツェッペリンのアルバムでは手がけました。
 聖なるというより、私には不気味な感じがします。世界的に帯を入れたのは、表ジャケットの少女のお尻部分を隠すため(欧米では幼児の陰部を見せるのも、倫理上よくないとされているための配慮と思われます)とのことのようです。

 では、各曲のレビューを。

 1曲目“The Song Remains The Same”・・・本来は2曲目の“The Rain Song”に続く前奏曲として作られたようですが、ロバート・プラントがそれだけでは惜しいと言って、歌詞を付けてしっかりとした曲に完成させたようです。オープニングを飾るのにふさわしいアップテンポの軽快な曲調で始まり、歌が入る部分からミドルテンポになります。ギターも12弦が入ったりするので、コンサートでは“Stairway
to Heaven”と同様Wネックギターで演奏されています(始めてライブで演奏されたのは2度目の来日公演でした)。
 初めてこのアルバムを耳にした時は「おお、ツェッペリン健在なり!」と叫んだほどでした(笑)。ギターのフレーズもドラムスもタイトに決まっております。
 多重録音でオーバープロデュース気味だし、元より少しピッチを上げてロバートの声を高く設定しているためライブバージョンと聴き比べると違和感が多少ありますが、ツェッペリンらしい曲と言えるでしょう。

 2曲目““The Rain Song”・・・。ジミー・ペイジのおとなしいアコースティック・ギターのイントロから始まるこの曲は、それまでいわゆるプログレッシブ・ロック(この呼び方は日本固有の言い方のようですが、YES、KING
CRIMSON、MODY BLUES、EMARSON, LAKE&PALMERなどクラシックやジャズ等とロックの融合を図ったようなクロスオーバーな音楽のジャンルとの融合を試みた前衛的なロックを総称してこう呼びました)のアーチストたちが当時好んでよく使ったメロトロンという楽器を導入していることで注目されました(演奏しているのはジョン・ポール・ジョーンズ)。

 メロトロンという楽器は形状としてはキーボードですが、音階ごとにそれに相応した8秒音が出るテープレコーダーに繋がっている電子的な楽器で、予め音階ごとに録音された音(たとえばバイオリンの音とか男性コーラスの音とか)のテープをセットしておくことで、疑似的な音を再現することができる当時としてはかなり優れものの楽器でした。
 当時、これとならんで、シンセサイザーという電子楽器も発明されて脚光を浴びていましたが、このシンセサイザーは電子的に、楽器の持つ音波を疑似的に作り出すことでキーボードを弾くことで意図した楽器の音色を出すのに対して、メロトロンはあくまでも元の楽器や声を音階別に事前に録音しておくというもので、両者にはかなりの差異があります。

 メロトロンのほうが元の音を利用しているということでリアリティがあるのですが、各キーボートがテープレコーダーのスイッチの役割になっているため立ち上がりが遅いことと、同じ音を8秒以上続けて出すことができない(8秒以上同じキーボードを押し続けても音が出なくなります。キーボードを離すことで、中のスプリングでテープが元の位置に戻り、スタンバイする仕組みになっているのです)という弱点があります。また何度も使っているとテープが傷んで来るので交換も必要になって来ます。
 もっともこのメロトロンを利用することで、これまではクラシックの多くの人々を雇ってストリングス(弦楽器)の音を出さないといけなかったのが、楽器1個で足りることとなるのですから、バンドにとっては非常に楽になったのです。このメロトロンの普及でクラシックの演奏者の失業者が増えると危惧して、イギリスではメロトロンの使用・販売を大きく制限するような法律が出来たことでも有名になりました。

 メロトロンに興味のあるかたはYOU TUBEのこちらの映像をみるとわかり易いかと思います⇒メロトロン・デモ

 もっとも最近ではメロトロンもデジタル化されて来て、かつての弱点も次第に克服されて来ているようですが、かつてのメロトロン独特の音色を好んで、敢えてデジタルではなく、アナログのメロトロンを使うアーチストも少なくないようです。

 このメロトロンという楽器はかつてTHE BEATLESが“Strawberry Fields Forever”のイントロ部分に使ったことで注目され、FREEのようなブルージーな“Soon I Will Be Gone”に使うなど、英国のロックバンドは1960年代後期から1970年代の前期には好んで使った楽器ですが、イメージ的にはプログレッシブ・ロックが使う楽器なのです。

 だから、ツェッペリンがメロトロンを使うというのがかなり意外で、違和感すら感じました。
 たしかにこの曲の曲調はハード・ロックというより、PINK FLOYDでもやりそうなミステリアス・ワールド。ジョン・ボーナムのパワフルなドラミングが活かせてないストレスのたまる曲と、ハードなロックを期待した多くのツェッペリンファンは思ったことでしょう。

 3曲目“Over The Hills And Far Away”・・・1曲くらいなら、ツェッペリンらしくない曲があってもいいか。そう思ってこの曲を聴き始めると、またアコースティック・ギターで始まるこの曲が始まり、これは???と思うのもつかの間、テンポが速くなって、エレクトエリック・ギターも登場することでひと安心。ある意味ツェッペリンらしいオーソドックスなハード・ロックと言えるでしょう。
 Gary Mooreの曲にも同タイトルの曲がありますが、イギリスには“mountain”(山)と呼べるほど高い山が存在しないので“hill”という言葉で表現されることが多いのだそうです。

 4曲目“ The Crunge”・・・ロックというより、今でいうファンクというジャンルに入る曲。もっともビートが8分の8拍子と8分の9拍子という、不思議な変拍子なので、かなりリズムを取るのが難しい。ジョン・ポール・ジョーンズがこの曲ではシンセサイザーを弾いています。
 歌詞の一部はファンクの帝王と言われたジェームズ・ブラウンの“Take It to The Bridge”
 ジョン・ボーナムは結構この曲を気に入っていたようで、ライブの途中でもこの曲のフレーズを叩いて、他の曲の間に即興的にこの曲のメロディーが演奏されることがあったようです。
 遊び感覚で収録したのかも知れませんね。
 評価的には非常にクールで素晴らしいというものと、ロックっぽくないというものとに分かれますが、ツェッペリンを単なるロック・バンドと捉えなければオシャレでかっこいいのではと思います。

 5曲目“Dancing Days”・・・ジミー・ペイジはこういう単調なフレーズの曲が好きな気がします。でも、ギター・ソロもなく私には退屈でした。

 6曲目“ D’yer Mak’er”・・・ジョン・ボーナム主導で作られた曲だそうです。ロックンロールっぽい曲にのちにレゲエ調に変更して行ったそうです。
 タイトルは「Did you make her ?」を表音したものだそうですが、英語風に言うとこれがジャマイカと聞こえるから、レゲエの発祥地のジャマイカとひっかけたようです。
 まだレゲエが世界的に有名になる前(ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズがデビューしたのが1974年。エリック・クラプトンは同年に彼らの代表曲の“I Shot The Seriff”をカバーし大ヒットしたのをきっかけに、レゲエも世界的に知られるようになっています)にこういう曲調を取り入れるのは先見の明があったんでしょうね。
 ライブでは一度も演奏されたことがないようですが、ドラムがとてもパワフルで面白い曲だと思います。

 7曲目“ No Quarter”・・・元々はジョンポール・ジョーンズが「IV」の録音時に原案を持ち込んだ曲だそうですが、そこでは日の目を見ず、次作なる当アルバムに収録された経緯があるようです。ジョン・ポールのエレクトリック・ピアノが基調に展開して行きますが、正直私はこの曲のエレピの音が苦手で、好きになれない曲です。ライブではジョン・ポールの延々と長いエレピのソロがフューチャーされて演奏時間も20分を超えているので、ライブ・アルバムを聴く時は私自身は飛ばしてしないことが多い曲です。
 ギターソロがJAZZっぽいと言われたりしてますが、エレピの湿った音に消され気味で今イチパッとしないイメージがあります。

 8曲目“The Ocean”・・・ジョン・ボーナムの“We’ve done four already but now we’er steady and
then they went. 1, 2, 3, 4”の声で始まる小気味良いストレートなハード・ロック・ナンバー。8分の15拍子という変拍子ながら、ドラムの音が心地良く響く。ギターソロのあとア・カペラのコーラスが入るなど凝った音作りにはっているが、それをあまり技巧と感じない快さがある曲だと思います。

 このアルバムはツェッペリンのスタジオ・アルバムの中では個人的には一番「???」がつくアルバムで、聴き込んでもその良さがあまり理解できず、買ったレコードを中古レコード屋に売ってしまいました。タイトル曲のはずの“Houses of the Holy”もなぜかこのアルバムには収録されず、次作に改めて収録されているという不可解なアルバムでもあります。前作の「IV」があまりにもよく出来たアルバムだっただけに、不満の残るアルバムという印象でした。
 このアルバムのレコーディング後にロバートは喉を傷めるなどあってトラブルが多かった時期なのかも知れませんが、できあがりが中途半端という印象が否めません。
 当時のミュージシャンは1年に1枚のアルバムを必ず出すとかいうような短期に定期的なアルバム作成契約を結んでいたことが多かったことから、このアルバムもそれが足かせになったのかも知れません。別にハード・ロックに限定した音楽だけやっていてくれれば良かったとは言いませんが、これぞツェッペリンみたいな曲は欲しかったですね。

 アルバムの発売と同時にヒットチャートの首位に躍り出たけれど、評価自体は高くないアルバムと言えるでしょう。


ついに、ジミー・ペイジのプロでユースした、2014年リマスター決定盤がでました。スペシャル・デラックス盤には未発表曲も!!