USA / KING CRIMSON(USA/キング・クリムゾン)

2020年4月19日

 

USA / KING CRIMSON

1. Larks’ Tongues in Aspic Pt. II

2. Lament

3. Exiles

4. Improv: Asbury Park*

5. Easy Money

6. 21st Century Schizoid Man

7. Fracture

8. Starless*

※「*」マークはLPで発売された際は未収録の曲。CDで初めて発売された際にこの曲順になっています。その後、発売されたCDでは1曲目に“Walk On:No Pusseyfooting”が、また“21st Century Schizoid Man”の位置に“Improvisation”が入り、アンコールで最後に演奏されることが多かった“21st Century Schizoid Man”が最後に入るという10曲で発売されているものが多い。

 解散後の1975年に発表されたKING CRIMSON名義では9枚目にあたる「USA」。その名の通り、1974年のUSAツアーでのライブを元にオーバーダビングされて発売されたものです。

ロバート・フリップ - ギター, メロトロン, エレクトリック・ピアノ
ジョン・ウェットン - ボーカル, ベース
ビル・ブラッフォード - ドラムス,パーカッション
デヴィッド・クロス – バイオリン,キーボード

 アルバム・クレジットにはこのようにメンバー表記がありますが、ロバート・フリップは“Larks’ Tongues in Aspic Pt. II”と“21st Century Schizoid Man”のバイオリン・パートと“Lament”のピアノ・パートのデヴィッドの演奏部分を消して、エディー・ジョブンソンの演奏をかぶせるという非情な細工をしています(当時、全くの表記なし。40周年記念で発売されたCD+DVDオーディオの2枚組や「THE ROAD TO RED」のBOXセットでは、デビッド・クロスの演奏が聴ける音源も入っています)。

 こういう姑息なことをするので、ロバート・フリップは嫌われるのでしょう。それだけならまだいいのですが、守銭奴ロバートはロバートみずから主宰するレコード会社「ディシプリン・グローバル・モービル」の公式サイトにて、このライヴのオーヴァーダブされる前の音源を有料配信し、コレクター音源としてCD化もしているというえげつないことをやっています。

 クレジットにも少し書きましたが、レコード発売時には、“Easy Money”は途中でフェードアウト。“Fracture”と“ Starless”は未収録でした。どうせなら最初から2枚組で出してくれたらよかったのですが、2枚組だとどうしても価格を上げざるを得なくなり、その分、売れにくくなることを懸念したレコード会社が納得せず仕方なく1枚でだせる分の音源収録になったと思います。

 この頃のKING CRIMSONのライブ音源はアムステルダムでのライブを録音したものがブートレグとしてかなり出回っており(オンライン録音でBBCのFMで放送されたものらしい)、そっちのほうがいいという評価がファンの大勢を占めていました。私も当時、ブートレグを購入した一人です(その後、ロバート・フリップがアムステルダムでのライブを「THE NIGHT WATCH」というタイトルの2枚組CDで発売しています)。

 このアルバムはレコード盤では前記のように“Easy Money”は途中切れでしかもオーバーダビングがあると散々だったために評判はよくなかったのはたしか。

 しかし、CD化ではかなり改善されて、音も聴きやすくなっています。

 結局はこのアルバムを評価するかどうかは、ロバート・フリップがやらせた、収録後のオーバーダビングを評価するか、それともマイナス評価するかによると思います。

 私は基本的にライブアルバムは、必要最低限の修正のみ、認める派なので、この基準でいけばこのアルバムは“アウト”となります。なぜ、そういうオーバーダブをしたのかという詳しい裏事情は知りませんが、そういう事情があるなら、アルバムにそのことを最初から明記すべきだったと思います。

 その後デヴィッド・クロスが演奏する音源も耳にする機会に恵まれましたが、演奏が酷いワケでもなく、むしろデビッド・クロスが演奏しているもののほうが自然で違和感なく聴けました。改めて、なぜデヴィッドの演奏を削除してオーバー・ダビングをして発売したのか疑問を持たずにいられませんでした。辞めてしまったデヴィッドにギャラを渡したくなかったのか、それとも他の権利関係が絡んでいるのか・・・・???

 近時の何度もリマスター盤や昔は発売するつもりのなかったライブをガンガン発売しているフリップの守銭奴ぶりを見ていると、そこにはお金の臭いがプンプンして来ます!!

 さて、ここまではこのアルバムのダークな部分に焦点を当てて書いて来ましたが、こうして、フル・コンサートとまでは言えないものの、ライブの全容に近い演奏が出て来たことによって、改めてこのライブ盤について論評してみたいと思います。

 最近のスゴ技テクニシャンばかり集めているクリムゾンは別にして、この時の編成はクリムゾン最強メンバーだったなーとこのアルバムを聴き返して思いました。デヴィッドは技量が劣るなどという人もいますが、彼もテクニックは十分だと思います。ただハートが他のメンバーのような鉄のように強くなかったことと即興演奏の技術に欠けていたことにあるように思います。

 当時のメンバーのインタビューを読んでみると、アドリブ演奏が日によって、40%~60%くらいだったといいます。つまり彼らはジャズ・バンドの即興のように毎日演奏を替えつつプレイしていたことになります。

 中学時代からロックにハマり、その頃からレコードの貸し借りをしていた親友のSくんが10年ほど前に「アメリカのコロンビアレコードが発売してるマハヴィシュヌ・オーケストラの廉価盤の5枚組アルバム」聴いたら、そのスタイルが1970年代前半のクリムゾンの演奏スタイルとそっくりでビックリした」と言っていました。当時のクリムゾンの演奏はロックというより、かなりジャズよりな音楽だった証しだと思います。

 そして彼らの演奏スタイルはハーモニーというよりバトルに近く、誰がイニシアティブを取るのかを競い合っていたようです。ある日を境に、ジョン・ウェットンのベースの音量だけがいやに大きくなった時期があり、それはオーディエンスに自分のベースの音がより届くようにと密かに自分のアンプの音だけを大きくするようにスタッフに要請した結果だと言います。また傲慢なビル・ブラフォオードはアドリブに対応でいないディヴィッドのプレイにあからさまに嫌な顔をすることも多かったようで、このような自分勝手なリズム隊の二人は首にするか、スタジオ録音には参加してもらってもツアーメンバーは別にするということまでフリップは考えていたというのに、結局、ディヴィッドだけを首にすることになったというのは皮肉なことです。

 このように毎日が闘いのようだったツアーが互いの力量のバランスがうまくかみ合った日は最高の演奏となり、そんな日はメンバーは4人とも満足したと言います。この日(1974年6月28日、Casino Arena Asbury Park NJ)の演奏も、このように綱渡りの日々だったにも関わらず、見事に調和し、感動のコンサートとなっています。未収録だった“Starless”の素晴らしい演奏も聴けて本当に良かったと思います。

 ただし、アンコールの“21st Century Schizoid Man”の演奏にはフリップは満足できなかったようで2日後の6月30日(Palace
Thetre Providence)の演奏のものが使われています。

 可能であれば、オーバーダビング前のディヴィッドの演奏とエディー・ジョブソンの演奏を聴き比べていただければ面白いと思います。

 当時のメンバーでの来日公演が実現しなかったのが、日本のファンとしては残念としかいいようがありません(実現しても当時は大都会に住んでいなかったので、実体験できた可能性は皆無ですが・・・)。

  

 ※USAのライブ盤はDVDオーディオ等でも5,1ch化はされず2chの音源だけです。