ON THE BORDER/EAGLES(オン・ザ・ボーダー/イーグルス)

2020年4月29日

 

ON THE BORDER /EAGLES

1. Already Gone

2. You Never Cry Like A Lover

3. Midnight Flyer

4. My Man

5. On the Border

6. James Dean

7. Ol’ 55

8. Is It True?

9. Good Day In Hell

10. The Best Of My Love

※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。

※発売時期や国によって多少ジャケットが異なりますので、ご了承ください。

 「ON THE BORDER(オン・ザ・ボーダー)」は1974年3月全米で発売。ビルボード最高順位17位。

 前作「DESPERADO(ならず者)」はよくできたアルバムでしたが、セールス的には失敗でした。だから彼らは苦悩していたのです。自分たちの望むのはカントリー・ロックっぽい音楽だけど、グループとして成功するためには売れないとダメなんだ・・・だから、このアルバムも前2作と同様にロンドンでレコーディングを始めたのも関わらず、2曲を録音したのちロサンジェルスにスタジオを移してレコーディングを再開したのです。
 プロデューサーがロック志向の強いビル・シムジクに変更。ビルはJAMES GANG(後にEAGLESのメンバーになるジョー・ウォルッシュも在籍したバンド)やJ.GILES BANDなどかなりハードなロックを志向するプロデューサーでした。

 つまり、彼らの選択はプライドを捨てて実を取った、純粋なロック・スピリッツを封印し、商業ベースの売れる音楽を作る選択をしたのです。成功するためには、カントリー・ロックという音楽にとらわれずにプレイすること・・・それが彼らが悩んだ末の結論でした(もっとも、その選択に耐えきれないメンバーたちがのちに脱退していくことになるのですが)。「ON THE BORDER(オン・ザ・ボーダー)」とはまさに、このアルバムを境界線として、この前までのアルバムと、これからあとのアルバムは全く違った意味になっていくのだ、ということを示したのです。このアルバムに収録されているタイトル曲ではこう歌っています。“俺はひと山当てようとしているんだ、この境界線(on the border)でさ”
 この苦悩の選択をこころに入れていただくと、本作以降のEAGLESのサウンドを理解しやすくなると思います。

 このアルバムを語る上で、もうひとつ忘れてならないのは、後に正式なメンバーとなる、もう一人のドンの登場です。すなわち、ドン・フェルダーという凄腕のギタリストがこのアルバムで2曲ギターを弾いているということです。
 このドン・フェルダーはバーニー・レドンとアマチュア・バンド時代に一緒にプレイしていました。彼がバーニーと違って、よりハードなギターをプレイすることがのちのEAGLESの大きなポイントとなっていくのです。

 さて、各曲のレビューにまいりましょう。

 1曲目“Already Gone”・・・この曲はファースト・アルバムに収められていた“Peaceful Easy Feeling”と同様ジャック・テンプチンの作品です。ジャックはJDなどとともにグレンが親しくしていた音楽仲間です。リード・ボーカルはグレン・フライ、ハードなギターはドン・フェルダーがプレイしています。カントリー・ロックっぽい雰囲気ではありますが、かなりヘビーなサウンドに仕上がっています。
 明るい曲調と違い、詩の内容はガールフレンドと別れたお話。それも女のほうが振ったのに、男のほうが捨てたんだと強がっている、やけっぱち気分の歌です。

 2曲目“You Never Cry Like A Lover”・・・ドン・ヘンリーとJ.D.サウザーの共作。この曲は前作までと同様、グリン・ジョンズのプロデュースでロンドンで録音されました。タイトルの“恋人みたいに泣かないで”はかなり意味深で皮肉っぽいもので、まだ恋人同士なのに、冷えてしまっている二人の関係を表現したもの。
 この冷めた恋人との関係はまさに純粋な音楽スピリットを捨てて、商業ベースのロックをやっている自分たちを投影させているのです。
 グレンとバーニーのギター・バトルが聞き物。

 3曲目“Midnight Flyer”・・・ポール・クラフト作の曲をカバー。ランディ・マイズナーがリード・ボーカル。バンジョーはバーニー・レドン。そして後半はグレン・フライのボトル・ネック・ギターが聴けます。

 

 上のライブ画像の一部をクリックしていただければ、実際に“Midnight Flyer”のDKRC 1974でのライブが見えます。画像が粗いのは予めご了承ください。

こういうブルーグラスっぽい曲を聴くと安心しますね。

don felder

 4曲目“ My Man”・・・この曲はこのアルバムが発表される前年に亡くなった、カントリー・ロックの祖とも言われたグラム・パーソンズ(享年26歳)のことを歌った歌(死因はオーバー・ドラッグだと言われています)です。バーニー・レドン作。
 “あの男(My Man)はやり抜いたんだ。苦痛を遠く超えて逝ってしまった。そして僕ら残された者たちは相も変わらず同じように生きていく。僕ら残された者たちは同じように笑い続けていくんだ”
 この曲はグラム・パーソンズがTHE BYRD在籍時に作った“Hickory Wind”の歌詞を上手に引用し、彼の死を悼んでいます。EAGLESのメンバーたちはグラムの死によって、ウエストコースト・サウンドの純粋なスピリッツは終焉したと感じたのかも知れません。
 バーニーはグラムがTHE BYRD脱退後結成したTHE FLYING BURRITO BROTHERSのメンバーとして一時期活動していました。この曲はグラムに敬意を表して、いかにもいかにのカントリー・ロックをプレイしているのです。

 5曲目“On the Border”・・・ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作。EAGLES版R&Bと言っていいような黒っぽいサウンド。今までにない実験的な曲です。ドン・ヘンリーとコーラスの掛け合いもなかなか乙なもの。

 6曲目“James Dean”・・・ドン・ヘンリー、グレン、JD、ジャクソン・ブラウンの共作。リード・ボーカルはグレン。ジェームス・ディーンと言えば若くして亡くなった素晴らしい銀幕のヒーローというイメージが強いが彼らはいかにも皮肉っぽく、そう前作の“Doiin-Daiton”を見るような冷ややかな目でジェームス・ディーンのことをロックン・ロールに乗せて歌っています。
 グレンはジェームス・ディーンをこんな風に語っています。「ジェームス・ディーンは最初のロックン・ロールの犠牲者さ。彼のトレードマークはブルージーンに白いTシャツ、それに艶のあるジャケットさ。ジミーは僕の最初のヒーローだった。“理由なき反抗”、最初の怒れる若者なんだよ。ジミーじゃないけど、僕のハイスクールの友達にも彼のようなヒーローはいっぱいいたさ」

 7曲目“Ol’ 55”・・・アサイラム・レコードに所属したダミ声のピアノマン、トム・ウェイツの曲をカバーしたもの。グレンとドン・ヘンリーが交互に歌っています。トムの退廃的な原曲に比べると、アル・パーキンスが奏でるペダル・スティールギターが入ったりしてかなりウエストコーストっぽいアレンジになっています。
 ちなみに、トム・ウェイツが歌う原曲はこんな感じです⇒こちら

 8曲目“Is It True? ”・・・この曲では唯一、ランディ・マイズナーが作って、リード・ボーカルを取る曲。ランディらしい、控えめで真面目な詩ですが、グレンの奏でるボトルネック・ギターを聴いていると、THE BEATLESのジョージ・ハリソンを思い出してしまいます。そういえば、ドンやグレンはTHE BEATLES大好きだったんですよね。哀愁に満ちた曲でよいです。

 9曲目“Good Day In Hell”・・・ドン・ヘンリーとグレン・フライお共作。リード・ボーカルもふたりが交互に歌うミドルテンポのブギ。ドン・フェルダーのスライド・ギターははやりうまいですね。メンバーが彼に加わって欲しい願ったのも当然でしょうか?

 10曲目“The Best Of My Love”・・・そして、このアルバムの最後を飾るのは全米の1位に輝いた曲。バーニーがペダル・スチールを弾いています。この曲もロンドン録音。ドン・ヘンリー、グレン・フライ、J.D.サウザーの共作。
 素晴らしいラブソングですが、この曲も実は去っていった恋人を思って歌う失恋ソング。純粋な音楽への思いを失いながらも、まだ音楽にしがみついている自分たちも、この歌の主人公と何ら変わりがないというメッセージも込められているようです。

 以上、当時のEAGLESのメンバーが心に抱いていた気持ちを考えて聴くと一層趣きあるアルバムと言えるでしょう。