THE LONG RUN/EAGLES(ロング・ラン/イーグルス)

2020年12月18日

 

LONG RUN /EAGLES

1. The Long Run

2. I Can’t Tell You Why

3. In The City

4. The Disco Strangler

5. King Of Hollywood

6. Heartache Tonight

7. Those Shoes

8. Teenage Jail

9. The Greeks Don’t Want No Freaks

10. The Sad Cafe

※曲目はオリジナルアルバムの曲目を紹介しております。

※発売時期や国によって多少ジャケットが異なりますので、ご了承ください。前回の格好いいジャケットに比べ今回のジャケットはいたってシンプル。表ジャケットには真っ黒に文字だけ。それがEAGLESの行く末を暗示しているかのようですね。

 EAGLESはセールス的には大成功しましたが、グループ仲はどんどん悪化して行きました。以前、バーニー・レドンに向けられていたドン・ヘンリーとグレン・フライの高慢な態度は今度はランディ・マイズナーに向けられるようになったのです。
 ヒットによる延々としたツアーや音楽性の違いもあって、ランディはついに1977年のツアー途中に脱退を表明し、後継のベーシストに、以前ランディが在籍していたPOCOのベースをしていたティモシー.B.シュミットが加入しました。チモシーもランディと同様ファルセット・ヴォーカルが得意で、EAGLESが活動休止してから、ソロ名義で1982年に“So Much in Love”というカバー曲を発売しています⇒こちら日本ではパイオニアのオーデオのCM曲として使われ、そこそこヒットしています。この曲はファルセット・ヴォーカルの得意なアーティストによって、多くカバーされており、S&Gのアート・ガーファンクル(こちら)、日本では山下達郎(こちら)にもカバーされています。ほかに、Huey Lewis & the Newsも日本公演でカバーしていました⇒こちら

 ツアー終了後、メンバーはレコーディングに取りかかりました。

 アルバム先駆けてまず1978年のクリスマス向けに“Please Come Home For Christmas(二人だけのクリスマス)”というシングルを録音しました。チャーリー・ブラウンという黒人ブルースマンがオリジナルです。クリスマスソングを発売するというのは大人気の証拠で、アメリカのミュージシャンでは名誉なこととされています。曲は地味ですがドン・ヘンリーのリード・ボーカルが渋いです。この曲はクリスマス・ソングの定番の1つらしく、その後、JON BON JOVIなどもカバーしています。ティモシー・B・シュミット参加

 さて、この「THE LONG RUN(ロング・ラン)」当初は2枚組になると言われ、1978年中には発売されると言われていましたが、メンバーたちは「HOTEL CALIFORNIA(ホテル・カリフォルニア)」の重圧に押しつぶされそうになり、解散を模索した時期も相当あったと言います(実は「ONE OF THESE NIGHTS(呪われた夜)」を発売後メンバーは何度もマネージャーに解散したほうがいいのでは?と相談し、それを思い留ませるのが大変だったといいます)。

 このアルバムのプロデューサーもビル・シムジクです。

 全米ではアルバム最高位1位。日本のオリコンでも初めて最高位1位を記録。

 1曲目“The Long Run”・・・ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作。“人生はまだまだ長いのだから”という歌詞が自分たちに言い聞かせているように聞こえます。ロックというより、ブラックなソウル。ギターの伴奏がまるでフォーン・セクションのような音。スライド・ギターはジョー・ウォルッシュ。シングルカットされて全米最上位8位。

 2曲目“I Can’t Tell You Why”・・・ティモシー、ドン・ヘンリー、グレンの共作。リード・ボーカルはティモシー。ティモシーも前任者ランディ同様の高い声が出るので、後継にはぴったりだったのでしょう。悲しいソウル・バラードっぽい曲。味のあるグレン・フライのギターソロも聞き物。シングルカットされてこちらも全米最上位8位。

 3曲目“In The City”・・・ジョーとバリー・デ・ヴォゾンという作曲家の共作。リード・ボーカルもジョー自身。哀愁のジョーのボーカルがいい。ちなみにジョー・ウォルッシュって人はステージでも奇妙な衣装やハットで登場することも多く、かなりクレージーな人らしく、ご機嫌が悪いとホテルの部屋をめちゃくちゃにして、出入り禁止になったこともしばしばとのこと。

 この歌はその日暮らしをしている男が都会で生きていくつらさを切々と歌ったもの。

 4曲目“The Disco Strangler”・・・ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作。リード・ボーカルはグレン。ファンク調ですが当時全盛だったディスコを皮肉るシニカルな歌。

 5曲目“King Of Hollywood”・・・これもドンとグレンの共作。リード・ボーカルはドン。女優の卵を食い物にするハリウッドの悪徳映画プロデューサーを皮肉った歌詞(EAGLESにはこの類いの歌が多いですよね)。グレン、ドン・フェルダー、ジョーが順番に個性的なスローテンポのギター・ソロを披露しており、それが聞き物。重いメロディがこの頃のEAGLES自身を象徴しているかのよう。

 6曲目“Heartache Tonight”・・・ドン、グレン、そしてボブ・シーガー、J.D.サウザーの共作。グレンがリード・ボーカル。タイトなスウイングのリズムが心地良い(ドン・ヘンリーによるとキンキンに乾燥させたドラムを叩くと、この曲のようなドライなサウンドが出るのだそうです。その音をキープするため来日公演の際は、ドラムスを乾燥機に入れて乾燥していたそうです))が、若さにまかせて夜な夜な遊びまくる若者を皮肉った歌。ジョーのスライド・ギターをフィーチャー。

 7曲目“Those Shoes”・・・ドンとグレンの共作。リード・ボーカルはドン・ヘンリー。オープニングのギターはジョーがマウスモジュレーターを利用しています。妖しい男と女を歌った妖しい歌。

 8曲目“Teenage Jail”・・・ドン、グレン、J.D.サウザーの共作。ドン・ヘンリーがリード・ボーカル。オールド・ロックンロールソング。ディストーションが効いたギターがかなりアナーキーな感じです。

 9曲目“The Sad Cafe”・・・ドン、グレン、ジョー、J.D.サウザーの共作。ドン・ヘンリーのリード・ボーカル。イーグルスのロード・マネージャーだった、亡きジョー・バリックに捧げられた感動的なバラード。サックスの名手デビッド・サンボーンがサックスを吹いています。

 EAGLESが結成する売れない時代にジャクソン・ブラウンやJ.D.サウザーなどとよく集って将来の夢を語っていたロサンゼルスのクラブ“トルバドール”での思い出を懐かしんで歌っています。

 有名になるという夢は叶ったけれども、心の中に残るもやもや、今もあの頃とあまり代わり映えしない、そんな気持ちを露呈させています。

 かつてのEAGLESだったら、“それでもいつか夢は叶う”とか“まだまだこれからだ”と希望を持たせる展開になるのですが、この曲はただただ寂しい酒場、わびしい酒場。それが当時のEAGLESを示していたのでしょう。

 “あの頃、俺たちは「愛」とか「自由」とかいった言葉で、この世界は変えられると思っていたんだ。Sad Cafeの中では俺たちも孤独な群衆の一部に過ぎなかったんだ。”

 “過ぎ去った年月を振り返りその力が一体なんだったんだろうと思う。俺にはわからない、なぜ運命はある人には微笑みかけ、他の者はほったらかしにするのかが・・・”

 解散したくても、周りがそれを許してくれない・・・まるで自分たちはハリウッドの女優のように仕事のためなら何でもするというようなミュージシャンに成り下がってしまったのでは、という屈辱感が押し寄せていたのかも知れません。そして、うだつが上がらなかったあの頃をむしろ懐かしんでいるかのような彼ら。

 のちにJ.D.サウザーがカバーした曲もなかなか味があります⇒ここ

 このアルバムを完成させた時、彼らの胸に運命の日が来ることをすでに感じていたことでしょう。正式に解散が発表されるのは3年後になりますが。

 さて、このアルバムが発売される少し前(全米では9月24日発売、日本では10月6日発売)の1979年9月17日~9月25日にEAGLESは2度目の来日公演を行っています(6月の予定でしたが、アルバム制作が長引いたことから延期されていました。チケットはそのまま持っていれば振替日にスライドできました)。

 その模様も合わせて少し触れてみます。

 1979年来日公演日程

9月17日(月)  日本武道館
9月18日(火)  日本武道館
9月19日(水)  日本武道館
9月21日(金)   名古屋市国際展示場
9月22日(土)   大阪万博記念公園お祭り広場
9月25日(火)  日本武道館

 セットリスト

1, Hotel California
2, Already Gone
3, In The City
4, Doolin-Dalton
5, Doolin-Dalton/Deperado (reprise)
6, Lyin’ Eyes
7, I Can’t Tell You Why
8, Desperado
9, Heartache Tonight
10, One Of These Nights
11,Turn To Stone
12, The Long Run
13, Life’s Been Good
14, Life In The Fast Lane
15, Rocky Mountain Way

Encore
  Take It Easy
  Tequila Sunrise
  The Best Of My Love

 まだ「THE LONG RUN」発売前だったので、新曲への反応が今イチでした。それにしてもニュー・アルバムからの演奏はシングル・カットされる3曲とジョー・ウォルッシュをフィーチャーした“In The City”というのは少ないような・・・。
 武道館初日だったかジョー・ウォルッシュが“Turn To Stone”のイントロを弾き始めた途端、ギターの弦が急に切れて、ローディーが慌てて新しいギターを持って来て、ジョーに渡して、改めて演奏を始めたことがありました。ただこの曲も“Rocky Mountain Way”もかなり長い演奏になるので、2曲延々とやるなら1曲に留めて“Wasted Time”などのEAGLESの名曲をもっとやって欲しかったですね。ジョー・ウォルッシュ目当てじゃない人も多かったでしょうし。
 毎回開演後、結構遅れて会場に入って来る人がいるのですが、EAGLESは1曲目が“Hotel California”ですから遅れて来た人の中にはこの名曲を聴けてない人もいて自業自得とはいえかわいそうに思いました。

 EAGLESはライブにはすごく力を入れているようです。スタッフだけでも30人くらいいつもいてサウンドチェックは万全だし、ギターも使うかどうかは関係なくいつも25本くらいは毎回チューニングして待機させておくそうです。メンバーも毎回、必ずコンサート前にはハモりの練習は欠かさずやるそうです。

 今回はティモシー・シュミットがリード・ヴォーカルを取る悲しいバラード曲“I Can’t Tell You Why”のライブを掲載しておきます。余談ですが、私の妻が大好きな曲です。